KING AMUSEMENT CREATIVE | SONIC BLADE

アスラクラインAWARDS グランプリ&準グランプリ 大発表!
ショートストーリー部門 グランプリ ショートストーリー部門 準グランプリ
イラスト部門 グランプリ イラスト部門 準グランプリ
ショートストーリー部門 グランプリ
タイトル:アンインストール  作者:騎士
 地面に突き刺さった冷凍マグロを、志津間哀音はじっと見つめていた。
瞬きも忘れた大きな瞳がきらきらと輝いている。
「ねえ、シロくん……このマグロ、何だかこのままでもパーティに使えちゃいそうだよね。どうやってこのまま動かそう」
「……また無茶なことを」
 その背中に溜息をつくのは洛芦和高校第一生徒会長、佐伯玲士郎だ。
生真面目そうな表情で哀音の後ろ姿を見守っている。
どうやら哀音はマグロの解体ショーよりマグロオブジェの道を考えているらしいが、
玲士郎も慣れたもので、しばらく無言のまま正門前に佇んでいた。
静かな時間が流れる中、ふと、哀音は突然激しい勢いで顔を上げる。
「あ! そういえばさっきの彼はどこに行っちゃったのかな?」
 切り替えの早さに玲士郎が思わず苦笑すると、哀音は悪戯っぽく笑みを浮かべて接近してくる。
「哀音、彼に告白されちゃったんだよシロくん」
「そうか」
「えー! もうちょっと驚いてよ……シロくんのいじわる」
 悔しそうな彼女をくすくす笑うと、マグロ騒ぎに集められていた生徒達がちらほらとこちらを見て驚いていた。
厳格な態度が知れ渡っている玲士郎が、こんなにも表情を穏やかにしている様子など見たことがないからだ。
「そもそも彼は一体何者なんだ、哀音?」
「え? 知らないよ。怪我大丈夫かなー……マグロ……」
 脳天気な哀音から視線を外し、玲士郎は状況を確認し直そうと周囲に目をやる。
哀音がぶちまけた大量のクラッシュアイスは、勢いのまま坂道全体に散らばっている。
生徒の登校時間のピークであったが、目立つ怪我人がいないのは不幸中の幸いか。
問題はこの冷凍マグロかと玲士郎は軽く肩を竦め、哀音を振り仰いだ。その瞬間だった。
 ふらり、とその小さな体が揺れた。そう思った時には既に、哀音の体は地面に打ち付けられていた。玲士郎は息を呑む。
 倒れる哀音と、重なったのだ。誰かのシルエットが。
 純白のドレス。柔らかそうな髪。その影は、哀音と共に倒れ、そして溶け込むように消えた。一つになるかのように――
『シロくん』
 遠く、呼ぶ声が聞こえる。

「インスタントカメラ、か……」
 小さく呟くと、隣の哀音が首を傾げた。二人にとってあまり馴染みのない安物のカメラだ。
修学旅行用にとこれを持ってきた時の妹の様子を、玲士郎は心の中で思い出す。
「二人とも、もっと笑って笑ってー」
 黒崎朱浬が甲高い声を上げる。露出度の高い衣装は玲士郎としては注意したいところ満載だが、
カメラを構えているのがその朱浬となるとそうもいかない。
哀音のことがある以上、気が進まないながらも朱浬に頼むのは仕様がないことだったが、
周囲の人々の美女への視線はあまりに露骨だった。
けれど本人は気にするどころか寧ろ堂々と、「もっと寄り添ってー」などと楽しそうだ。
どんな経験が彼女をそうさせたのかは知らないが。
 玲士郎と哀音はしっかり並んでいるが、朱浬はどうにも満足いかないらしい。レンズ越しにこちらを睨んでいた。
「ちょっと玲士郎。引きつってるわよ表情筋。哀音ももっと笑顔!」
 けれど隣の哀音は何故だか楽しげだった。横顔を見て玲士郎は、ふと思う。
いつか避けられない未来が訪れた時。自分はどうしているだろう。
大切な少女を失っても、変わらずにいるだろうか。いられるだろうか。
「……哀音、突然だが聞いてくれ」
 玲士郎はゆっくりと微笑みを表情に乗せた。彼女と共に在る時、面倒に巻き込まれても、必ず浮かべてしまう最大の笑顔を。
哀音はその横で、朱浬が掲げるカメラを見つめていた。
「たった一言だから、耳を澄ましてくれ」
「…………」
「僕は、君のことを――」
 ぱしゃり。シャッターの音が弾けた。
 気づいたのは朱浬だけだった。レンズ越しに哀音が浮かべていた、悪戯っぽい微笑みに。
満足げに頷いて、朱浬は遠い空を見上げる。

「哀音、どうした。大丈夫か!?」
「ん……ごめん、何でもないよシロくん」
 青ざめた哀音の姿は、とても大丈夫そうには見えない。玲士郎は焦る気持ちを吐き出しかけ、
「ねえ、シロくん」
 哀音に静かに遮られた。普段とは似て非なる彼女の姿に、思わず押し黙る。
どこか虚ろな表情で、哀音はゆっくりと立ち上がると、抱きつくように冷凍マグロにそっと寄りかかる。
玲士郎は呼吸さえ忘れ、その光景に魅入っていた。
散らばった氷の真ん中で、人形のような少女が眼を閉じた、幻想の光景に。
「あの時の言葉、ちゃんと聞こえたよ」
「あの、時……?」
 哀音は、遠い誰かに告げるように、
「私も、シロくんのこと」

 好きだった。
 ずっとずっと、好きだったよ。

 氷海に取り残されたように哀しげに、それでも微笑みながら、小さな涙の雫を落とす。
選評:三雲岳斗氏
一巡目の世界の二人の姿と対比させながら、玲士郎と哀音の心情を描いて下さった作品。
透明感のある文章と、アスラクラインの設定を巧みに使った構成に驚かされました。
その意味で、アスラクラインAWARDSグランプリに相応しい作品だと思います。
幸福そうな二人の姿から深い悲しみが伝わってくる、とても綺麗な作品でした。
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ショートストーリー部門 準グランプリ
タイトル:カゲロウ  作者:川上正明
ユラユラと、世界が揺れる。
ユラユラと、想いは揺れる……

もうすぐ自分は殺される。
不思議なことに、それが不可避の事実だと解っていても、それほど恐怖は感じていなかった。
悪魔である自分がこの学校に入学した時点で、危険があることなど承知していたし、
それに、わたしがここで死ねば、少なくとも……
そこまで考えて一人の少年の顔が脳裏をよぎる。
どこか頼りない顔立ちの……とても優しい人。
あの少年は、あれからどうしただろうか?悪魔である自分が消えれば、第一生徒会が彼に危害を加える理由は無くなる。
射影体の少女も時間が経てば復活する筈なので機巧魔神(アスラ・マキーナ)の力さえ使わなければ、
彼の日常は平穏に戻ることだろう。
なら、それで十分だ。私のせいで巻き込んでしまった彼への、それがせめてもの罪滅ぼしになるのなら。
(それに、どうせ生きていたってもう……)
魔力(ちから)を使った時の、恐れとも驚愕とも付かない彼の表情を思い出す。
あの時は他にどうしようもなかった。そうしなければ、彼は殺されていたかもしれないし、わたしだって生きてはいないだろう。
それでも……それでも、もう少しだけ、せめてあの人の前でくらいは、家のことも力のことも忘れて――
この先は考えちゃいけない。
わたしが死ねば丸く収まるのだ。
それだけで、わたしの命に価値が生まれる……だったら、それ以上を望むのは贅沢というものだろう。
そう思っていても、取り留めがない思考だけは次から次へと溢れてくる。
抑えようと思っても、揺れ動く感情だけは、どうしても制御することができなかった。

そんな願望とも妄想とも言えない想いに囚われていたせいか、最初“ソレ”が何なのか分からなかった。
遠い意識の底で、ぼんやりと花火のようだなどと思っていた“ソレ”が実際の爆発音であることに気付いたのは、
一際大きな轟音が教会堂に響いた後だった。
(なんだろう?)
思考の定まらない頭で、第一生徒会の面々が混乱している様子を見るともなしに眺めていた。
怖れ、戸惑い、怒号が飛び交っているようにも思えたが、まるで夢の中にいるかのように現実感が薄い。
だから幻だと思った
次に自分の目に飛び込んできたもの――

「嵩月!」

え?
自分の願望が見せた、都合の良い幻。そう思った、そう思いたかった……でも、幻の筈の彼はどんどん近付いてくる。
その度に希薄だった現実感が少しずつ熱を帯びていった。
その姿が目の前まで迫った時……彼の瞳がわたしの状態を確認し、安堵に揺れる様を見て取った時、
ようやくそれが夢ではないことを実感できた。
「動けるか、嵩月?」

どうして?
嬉しい?
わたしが巻き込んだのに?
悪魔(わたし)がいなくなればそれで丸く収まる筈なのに?
悪魔の力(わたし)を怖れていたはずなのに……

渦巻いた想いは何一つ言葉にならなかったけれど、そんな想いなど関係なく……
或いはそんな想いすら汲み取ってくれたかの様に、 彼の口調は気安い。まるで、普通の女の子に接しているかの様に。
「嵩月、これにサインしろ」
渡されたのは一枚の紙きれ。
これが何かは分からなかったけれど、何であっても受け入れられる気がした……それが、夏目君(この人)の言葉なら。

自らの血液でサインしたその紙は、まるで契約書のようにも見える――
ううん、これは契約書。
わたしが悪魔(わたし)でいる為の契約書。悪魔(わたし)のままで居ても良いんだという証明書。
夏目君を守ろう。わたしを悪魔(わたし)のまま認めてくれたこの人を。
この熱(想い)が――

タトエコノミヲヤコウトモ……
選評:三雲岳斗氏
奏の視点から、智春に救われたときの彼女の心情を丁寧に描いてくださった作品。
応募作の中でも群を抜く文章力で、感情の動きがリアルに伝わってきました。恰好よくて感動的。
アスラクラインの原作では決して描かれることのない彼女の心境を、このような形で補完してもらえたことがとても嬉しいです。
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イラスト部門 グランプリ
イラスト部門 グランプリ
作者:鈴鹿
選評:和狸ナオ氏
怒りの佐伯玲士郎、お給仕係の樋口をはじめ、立ち位置や仕草にそれぞれの性格がしっかり現れておりますね~。
こちらの智春ならば頼もしくてヘタレと言われずに済みそうですし、加賀篝の不敵な笑みも非常にいい感じ。賑やかさが自分の描き方と重なって、勝手に共感しつつ拝見してしまいました。
敵も味方も交え、沢山のキャラで彩って頂けて嬉しいです。
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イラスト部門 準グランプリ
イラスト部門 準グランプリ
作者:蒼風みくも
選評:和狸ナオ氏
可愛い……なんでしょうこのチビッ子達は!
今にもチマチマと動き出してくれそうです。
科學部メンバーとなんだかんだで付き合いの長い玲士郎・哀音を一緒に並べて頂けたのも嬉しいところ。
哀音と智春の笑顔が胸に染みます。
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コスプレ部門・歌唱部門につきましては、グランプリ・準グランプリとも該当者がありませんでした。
ご応募いただいた皆様、ありがとうございました。
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