名門の家に生まれ、成績優秀で偏差値の高い名門校に通い、かといって決して奢ることのない心優しさを持ち、
でもちょっと引かれたレールの上を歩んできたが故の主体性にかける面がある…。
そんな男の子がこの物語の主人公。
傍からみれば誰もがうらやむような主人公に天から降って沸いたような災難が突如として襲い掛かる。
先日亡くなった一家の長であるおじい様の遺言が事もあろうに女学院への編入!
それも通うだけではなく、寮に入れとのお達しが…。
慕っていたおじい様のたっての遺言を反故にする訳にもいかず、
性別を偽って女学院へと編入することになった主人公…。
果たしてどんな運命が??





貴子の危機を救った瑞穂。だがその拍子に、彼が男であることが貴子にバレてしま う。その一件から、2人はずっと重い表情のままだった。一方の瑞穂は貴子を騙し ていたことへの罪悪感。もう一方の貴子は、今まで女性と思っていて、なおかつ密 かに思いを寄せていた瑞穂が、男だと判明したことへの戸惑いとショック。瑞穂に 騙されていた間、自分へ向けられた彼の笑顔もすべて偽りのもののように思えてく る。
 そんな貴子だが、瑞穂が男であることはまだ他の生徒たちに知らせていなかっ た。生徒たちが知るのは「お姉さまが貴子の危機を救った」という功績のみ。それ は、瑞穂が何度謝ろうとしても相手をしなかった貴子が、本当は彼を気遣っていた ことの表れだった。瑞穂はそのことをまりやの言葉から気付かされ、いっそう罪悪 感を募らせるが、その一方で貴子に自分の意志を伝えることを決意。その意志と は、今までのけじめとしてダンスパーティーで男性パートを務め、その後に自分は 学院を去りたいというものだった。だが、それを伝えられた貴子は、彼に対し言葉 をかけることができなかった。本心では、自分が思いを寄せた瑞穂には学院に残っ ていてほしい。しかし生徒会長としての立場上、重大な事実を隠し通すことは許さ れない。その板ばさみで苦しむ貴子を置いて、時は無情にも過ぎ去り、ついにダン スパーティー当日となった。
 当日、瑞穂は奏や由佳里、そして一子たちとともに会場となる体育館へと向か う。「お姉さまと踊れる」という期待感で笑顔のほころぶ奏たちに連れられなが ら、ひとりさまざまな思いを巡らせる瑞穂。だが、到着した会場に貴子の姿はな かった。生徒会主催であるパーティーに生徒会長が不在という事態。いったい、貴 子はどこへ行ってしまったのか。そして、瑞穂は彼女と和解することなく、学院を 去ることになってしまうのか……




 いつもは元気なまりやが、珍しく風邪を引いた。瑞穂は彼女を心配し、下校時に一緒に帰ろうと誘うが、まりやは彼を避けるようにその場を離れてしまう。 自分の気持ちに気づいたまりやは、男として瑞穂を意識するあまりに彼を完全に拒絶するようになってしまっていた。
そんなまりやの意図がわからず瑞穂は、釈然としないまま、ひとまず、借りた本を返すために図書室へ向かうことにした。
 図書室では、掲示板の前で貴子と君枝が何かのポスターを貼っていた。その内容は、一年を締めくくる最後のイベントとして毎年行なわれる、生徒会主催のダンスパーティーの告知だった。瑞穂に挨拶された貴子は、彼にそのダンスパーティーにおける男性パートの役割を依頼。パーティーに一人で参加した生徒たちをエスコートするため、エルダーは毎年男性パートを務めるのだという。それを聞いた瑞穂は、恥ずかしい気持ちがあったもののエルダーとして誇りを持って引き受けることに。  
その一方で、まりやはついに風邪をこじらせ、学院を休むようになった。そこで瑞穂は、彼女の部屋へ見舞いに行くと同時に、「もっと自分を大切に」とまりやを諭す。幼い頃から、風邪や怪我のときに強がっていたまりやを、瑞穂はずっと心配していたのだ。そんな気遣いを受けて、まりやはある考えのもと、なんと彼をデートに誘う。  
 そしてデート当日、初めはぎこちなかった瑞穂とまりやだが、次第に打ち解けるようになった。学院祭から今まで、2人の間に存在した不自然な距離から、いつもの距離に戻った瞬間。一人でずっと迷い、落ち込んでいたまりやの心も晴れていく。  
  だがそんなとき、学院では下校途中の貴子に不穏な影が近づいていた……。






  学院祭が間近となり、それぞれの出し物の準備は最後の段階へと進んでいた。まりやは自分のクラスでプラネタリウムの設営を完了させ、奏は演劇部主催の芝居 で台本なしの通し稽古を行なう。そして瑞穂と貴子も同じく、芝居「ロミオとジュリエット」の練習を重ねていた。それを通じて、2人の距離は次第に近くなっ ていく。瑞穂のためにと貴子が手作りサンドイッチをつくったり、2人いっしょにまりやのクラスでプラネタリウムを見てみたり……。
そんな日々が過ぎ、学院祭を明日に控えたとき、まりやが瑞穂の最後の練習に付き合うと言ってきた。そこで2人きりの練習を始めるが、キスシーンのところで まりやは瑞穂に迫られ、ドキドキしてしまう。最初は、芝居だからと余裕の表情だったまりやだが、自分を見つめる瑞穂の顔が近づいたとき、その余裕はすべて 消えていたのだ。それは、まりや自身が予期していなかった感情だった。
明けて学院祭当日、奏が主役となっている演劇部主催の芝居のあと、いよいよ「ロミオとジュリエット」の幕が上がろうとしていた。だが、奏の芝居を見終えた まりやは、なぜか次の瑞穂たちの芝居を見ることなく、自分の教室でプラネタリウムの受付をしていた。いつもみんなに優しい瑞穂。自分が苦手な貴子とも仲良 くなっていく瑞穂。芝居とはいえ、真剣な表情で自分に迫ってきた瑞穂。さまざまな瑞穂を思い起こしていた彼女は、心がまとまらないままプラネタリウムで自 分の役目をこなしていくたが、ふと立ち上がり講堂へと向かったのである。
そして講堂では「ロミオとジュリエット」がついに開演。大勢の生徒たちが真剣な眼差しで注目する舞台上で、瑞穂と貴子の芝居は滞りなく進行していた。だが、いちばん重要なシーンが訪れたとき、芝居は思わぬ展開になってしまう! それを目撃したまりやは・・・。






 年に一度の学院祭を近くに控え、生徒たちが高揚しはじめていたころ、生徒会ではひとつの企画が決定された。毎年、学院祭での生徒会主催の出し物は、生徒たちの投票によって決められる。その投票の結果、今年は瑞穂と貴子を主役にした芝居という声が圧倒的に多かったのだ。貴子は自ら、瑞穂にその芝居への出演を依頼。瑞穂はその話を聞いて戸惑うものの、最終的には出演の決意を固める。そのきっかけは奏だった。彼女もまた、演劇部主催の芝居で主役に選ばれ、すでに厳しい練習を重ねていた。だが、奏の中では、本番へのプレッシャーが日ごとに大きくなっていたのだ。そこで彼女の不安を軽減するべく、瑞穂も生徒会主催の芝居に出演することを決意。奏とともにお互いの芝居を頑張ろうと誓う。
 そんな瑞穂と貴子が共演する芝居は「ロミオとジュリエット」。稽古に備え、貴子は早速台本に目を通すが、ラブシーンまであるというその内容に赤面してしまう。だが、今からでは台本の内容変更は時間的に難しい。貴子は仕方なく、その内容で瑞穂たちと台本の読み合わせに挑むことに。しかし、その段階からどうしても相手役の瑞穂のことを意識してしまう。いずれは、それらのシーンの練習もしなければならないのだ。
 一方、まりやは彼を避けるようになっていた。まりやにとって苦手な相手である貴子との芝居共演もさることながら、奏や由佳里たち周りの生徒への気配りも怠ることのない瑞穂は、まさに「お姉さま」にふさわしい存在。昔は頼りなかった彼の成長ぶりに対し、まりやは寂しさを感じていたのだ。だが瑞穂は、なぜか冷たい態度をとる彼女に戸惑うばかり。このままでは、2人にすれ違いが生じてしまう。まりやの秘めた気持ちに整理はつくのだろうか。そして、瑞穂と貴子の芝居の行方は……。






 陸上部に所属している由佳里は、先輩のまりやに負けず劣らずの努力家。今日も朝練に励む彼女に、瑞穂がタオルを差し出しながら声をかける。しかし、由佳里からの返事は元気のないものだった。その理由は、長距離を走った疲れからくるものではなく、別のところにあった。
 食事中、いつもはよく食べる由佳里が、元気のない様子でいることを心配したまりやは、陸上部顧問に由佳里の調子を尋ねた。すると、由佳里は最近タイムが伸び悩んでいるという答えが返ってくる。それには、まりやも心当たりがあった。由佳里は、陸上では短距離走向きなのだが、実際は長距離走で大会出場をめざしているのだ。次の大会の出場選手を決める選考会も近いときに、このままの調子では出場が難しくなるおそれもある。それを聞いた瑞穂も、由佳里をいっそう心配するようになった。
 そんなある日、由佳里が瑞穂の部屋を訪ねてきて、彼に語りはじめる。由佳里が聖應女学院に入学し、陸上部で長距離走をやるようになったのは、今は亡き義姉の影響らしい。優しく素敵だったと由佳里が語るその人物は、瑞穂に少し似ているのだという。そのため、彼女は瑞穂だけに自分の悩みを打ち明けたのだ。しかし、それを語ったあとも由佳里の気持ちは晴れることがなかった。義姉のために陸上を始めただけで、自分自身は走ることが好きではなかったのか。義姉を追い続けてきただけで、自分自身の意志は存在していなかったのか。もしそうなら、今までの自分のしてきたことは何だったのか……。さまざまな思いが頭をめぐり、さらに追い詰められていく由佳里は、これから先も迷走し続けてしまうのだろうか。そんな彼女に対し、瑞穂がかけた言葉とは?






 季節は秋。衣替えの時期である。聖應女学院ではそれに伴い、生徒会による服装チェックが行なわれていた。そのとき、貴子は奏の頭のリボンを「ずいぶん大仰だ」として注意し、身に付けることを禁止した。そんな貴子の見解に対し反論しなかった瑞穂を見て、まりやは声を荒げる。奏は瑞穂の妹のような存在。だからこそ、奏のことは瑞穂が守るべきだと。そこで彼は気付かされた。いつも自分に笑顔を向けてくれる奏に対し、逆に自分もしてあげられることがあるのなら。そう思い、瑞穂は奏を守る決意をする。貴子の意見が間違いだと断定はできないものの、奏のリボンが校則に違反しているとも思えない。ならば、奏が生徒会から処罰を受けるのは防ぐべきだと。
 そんな彼を後押ししてくれたのが紫苑だった。彼女は瑞穂に、学院における「生徒会則・附則第三項」があることを教える。そこには、生徒会への異議申し立てをする場合の手段が記述されていた。それに基づいて異議申し立て書を貴子に提出する瑞穂だが、それで終わったわけではない。やがて異議申し立て書は学院内で掲示され、最終的な判断は全生徒の総意により決定されるのだ。
 その後、瑞穂は奏から、リボンに込められた思いを聞く。彼女がある事情によりとても大切にしているというそのリボンを、貴子の一存で禁止させるわけにはいかない。やがて瑞穂は、今回の異議の件を改めて全生徒の前で述べるため、学院の講堂へと向かう。何が正しくて何が間違いなのかを悩み続けた彼だが、今はひとつの結論に辿り着いていた。その結論と、そして奏への思いを胸に、瑞穂は講堂の壇上にて確固たる口調で語りはじめる……。






 エルダー選挙や、幽霊・一子の登場など、様々なことが瑞穂の周りで起こった。しかしそれも落ち着いて、彼は聖應女学院での生活にすっかり慣れた。このまま何事もなく学院生活が続いていくのかと思いきや、また新たな問題が発生してしまう。
 季節は夏。夏といえばプール。プールといえば水着である。しかし、瑞穂がスクール水着を着れば、男であることがバレてしまうかもしれない。そこで瑞穂はまりやの提案で、女の子の日を理由にプールの授業を見学することにした。とはいえ、プールの授業は一度だけではないため、彼は繰り返し見学せざるを得なかった。他の生徒たちはそんな彼の様子を見て、「プールを意図的にボイコットしているのでは」と噂するようになる。
 その噂を耳にした生徒会長の貴子は、瑞穂に直接、真相を問い詰めた。しかし、その場にまりやが居合わせたため、話は大きく逸れていく。過去の因縁により、対立関係にあるまりやと貴子。その2人が、今回の噂の発端である瑞穂そっちのけで口論となり、最終的には水泳勝負をすることになってしまったのだ。
 すぐさま猛特訓を開始するまりやと貴子。まりやは陸上の大会前以上に過酷なトレーニングをこなし、貴子はプールでタイム短縮に尽力する。だがその影響で、授業中に貴子が居眠りをするようになってしまう。普段では考えられない、貴子のその様子を見た瑞穂は、彼女を昼食に誘うことにした。まりやも貴子も、なぜそこまで無理をするのか。その原動力となっている、過去の因縁とは? その疑問を解決するためである。やがて貴子は、親身になって話を聞いてくれる瑞穂に対し、因縁の真実を話しはじめる……。
 そしていよいよ水泳勝負の日。まりやと貴子は緊張の表情で学院のプールへと向かった。だが、そのプールを見た瞬間、彼女たちの目が点になってしまう。2人の前に広がった光景とは、一体何なのか!?






 学院寮の瑞穂の部屋に、幽霊の女の子・高島一子が突如現われた。今から22年前、生前の彼女が慕っていたエルダーのお姉さまが瑞穂に似ているということで、彼にも思いきりなついてくる。最初は戸惑った瑞穂だが、一子が出現したことにより悪いことが起きるわけでもないので、ひとまず彼は自分の部屋で一子とともに生活することになった。とはいえ瑞穂は、一子が慕うお姉さまそのものではない。しかもれっきとした男なのだ。そこで、一子との自己紹介を終えたまりやが彼女に対し、瑞穂が男であることを明かした。だが、一子はその事実にショックを受けることなく、逆に感動して瑞穂にこう言った。「私をお嫁さんにしてください!」と。一子の願いは、あこがれのお姉さまのお嫁さんになること。もちろん女の子同士ではかなわぬ願いなのだが、お姉さまでなおかつ男でもある瑞穂は、一子の願いをかなえられる条件をもっていたのだ。一方、幽霊が苦手な由佳里は、初めこそ一子を怖がっていたものの、一子の明るく元気な性格は、自分が抱いていた幽霊の暗さや怖さとかけ離れていたため、すぐ慣れることができた。
 こうして、寮での生活に馴染んだ一子だが、瑞穂は彼女の慕うお姉さまとはどんな人物なのかが気になっていた。一子から、そのお姉さまの話を聞けば聞くほど、瑞穂の興味は高まっていく。一人の少女が、お姉さまに会いたいという未練のみで幽霊となって出てくるほど、慕われる人物とは? それを知るために、瑞穂は生徒会室を訪れた。やがて、そこで見た一冊の資料で謎は解け、同時に瑞穂は衝撃を受けることになる。彼に似ているという、22年前にエルダーだったそのお姉さまの名は……。






 夜の学院寮で瑞穂とまりや、由佳里、奏の4人は怪談話をしていた。そのとき、奏はふと気付いたことがあった。学院寮内の生徒たちの部屋は南側にあるのに、瑞穂の部屋だけが北側にあるのだ。まりやが言うには、瑞穂が女学院に編入したことと同じく、それも彼の祖父の遺言らしい。だが、「調度品や家具は備え付けのものを使うように」という遺言まである理由は、瑞穂にはわからずじまいだった。
  そんなとき、瑞穂の部屋に由佳里がやってきた。怪談話が大の苦手という彼女は、まりやから聞かされた怪談話が影響して、一人で寝るのが怖くなったらしい。そこで瑞穂と一緒に寝たいというのだ。一緒のベッドで寝れば、男であることがバレてしまうかもしれないと思った瑞穂だが、由佳里は彼の横ですぐ寝付いてしまった。しかし、翌朝まりやにその光景を見られて大激怒される。幼なじみの少年と、後輩の少女が同じベッドで寝ているのだから無理もない。瑞穂はその後、昨晩の事情に加え、由佳里とは何もなかったということをまりやに散々説明しなければならなかった。
  そんな2人のもとへ、奏が慌てた様子でやってきた。何でも、瑞穂の部屋は以前「開かずの部屋」と言われていたらしい。それは22年前のこと、瑞穂の部屋で生活していたエルダーがいた。そのエルダーを慕う、一人の少女が瑞穂の部屋で悲しい死を遂げたらしい。それ以来「開かずの部屋」になったというのだが、瑞穂はそんな部屋を自分に与えた祖父の考えがますますわからなくなる。すると突然、瑞穂の部屋の家具が激しく揺れはじめた。それは地震ではなく、ポルターガイスト現象だった。一体、瑞穂の部屋で何が起ころうとしているのか……?






 瑞穂のことを噂する生徒たちが次々と口にする単語、「エルダー」。それは、聖應女学院において手本となる最上級生のことらしい。年に一度、生徒たちの選挙によって一名のみ選出され、エルダーになった生徒は、全校生徒から尊敬を込めて「お姉さま」と呼ばれるようになる。そのエルダーが、今年度は瑞穂に決まるのではという噂が立ちはじめたのだ。とはいえ、エルダーになるためには得票数が全校生徒の75%も必要。学院に来て日が浅い瑞穂の存在は、全校に広く知られているわけではない。
  そこで、まりやが由佳里や奏たちとともに根回しを始めた。とはいっても裏で何かを企むのではなく、自分の友人たちに、瑞穂のすばらしさを話して回るというもの。なぜまりやが根回しに躍起になっているかというと、現生徒会長の厳島貴子が関係しているようだ。エルダーの候補者が出なかった場合は、その年の生徒会長がエルダーも兼任するという決まりがあるのだが、まりやはなぜか、貴子にエルダーの座を渡したくないらしい。それどころか、まりやと貴子は普段から仲が悪い様子。2人の間で過去に何かがあったのか。その詳細を、瑞穂はまったく知らなかった。
  そんなこんなで、あっという間にエルダー選挙の日がやってきた。最初はまりやの話に乗せられただけのように思えた瑞穂だが、紫苑も彼をエルダーに推薦してくれるとなれば、投げやりな態度でもいられない。そしていよいよ、緋紗子先生から投票の集計結果が告げられるとき。はたしてその結果は……!?






 瑞穂にとって、聖應女学院生活2日目となる朝がきた。初日にさまざまな出来事を体験した彼だが、女の子になりきって学院に通うという事態に、すぐ慣れるものでもない。多くの不安と疲れが残る瑞穂だが、そのとき長い黒髪の美少女が彼の前に姿を見せた。彼女の名は十条紫苑。息を呑むほど美しく、品格の良いその姿は、本物のお嬢様という雰囲気だ。紫苑を慕う生徒たちは数多く、瑞穂も例にもれず、自分の隣の席に座る彼女のことが気になりはじめていた。
  そんな紫苑は、すでに瑞穂が男であることを見抜いていた。彼女からそのことを指摘された瑞穂は、まりや以外の生徒にバレてしまったと焦る。だが、紫苑は他の生徒には口外しないことを約束。そのおかげで瑞穂は女学院を過ごしやすくなった。違うクラスのまりやとは別に、隣の席に協力者がいるのは心強い。以前は緊張しっぱなしだったトイレも、紫苑の同行のおかげで余裕がもてるようになったのだ。
  だが、その後の体育の授業のバスケで、瑞穂はつい、男としての運動神経を発揮してしまう。しおらしい女の子には困難なダンクシュートまで決めてしまい、今度こそバレたと覚悟する瑞穂。だが彼の予想に反して、周囲からは黄色い声が湧き上がった。どうやら彼のことを女の子として「かっこいい」と思ってくれたらしい。瑞穂にとっては、初日に引き続き複雑な気分だった。
  それと同時に、女の子たちの噂話に聞き慣れない単語が含まれるようになった。その単語、「エルダー」は瑞穂のことを指しているらしい。まりやや由佳里、そして奏もそのことで盛り上がっている様子。噂をされる当人の瑞穂が知らないまま、学院全体で何かが始まろうとしていた……。






 多くのお嬢様たちが集う、伝統ある学院「聖應女学院」。なんとそこへ、一人の少年が編入されることになった。名は宮小路瑞穂。男であるはずの彼が女学院に編入されることになった理由は、彼の祖父の遺言によるものらしい。だが由緒あるお嬢様たちとともに学院生活を送るには、男の外見のままでは無理。そこで、瑞穂は幼なじみの少女、御門まりやの手によって見事な女の子に仕立て上げられる。もともと女の子のような外見の瑞穂は、メイクと衣装ですっかり美しくなってしまったのだ。
  そしてまりやとともに学院へ向かう瑞穂。女装した彼は、男であることがバレないかと、気が休まらない。そんな彼にも、わずかながら協力者がいた。学院長と、担任の梶浦緋紗子先生だ。2人に挨拶を終えた瑞穂は、その後、緋紗子先生によって教室へ案内され、クラスの生徒たちに紹介される。自分の姿を大勢の女生徒たちに見られ、女装がすぐバレるかと思いきや……逆に彼女たちは、瑞穂のことを羨望の眼差しで見ていたのだ。美しさ、背の高さなどなど、彼への賛辞の言葉が次々と聞こえてくる。背の高さはいいとしても、「美しい」と称えられてしまった瑞穂は、男として、ちょっと複雑な気持ちになるばかり。
  そして授業終了後、瑞穂はまりやに連れられて学院寮に行くことになった。そこで出会ったのは元気な女の子、上岡由佳里。彼女はまりやの世話係を務めている。学院寮では下級生が上級生の世話をするというしきたりがあるのだ。つまり、まりやと同じ3年生である瑞穂にも、世話係がいる。それが周防院奏。ややドジっぽいところもあるけれど、健気でかわいい女の子だ。そんな女の子たちと、学院はもちろん寮でも生活することになった瑞穂。まだまだその環境に慣れず、恥ずかしさがあるようだ。すると、それを見抜いたのか、まりやが「女の子に慣れるため」と言いながら、あることを企んできた。男のままならうれしいことなのだが、由佳里や奏たちにも、男であることは隠さなくてはならない。瑞穂は女の子として、その企みに耐えるしかない。そんなこんなで、瑞穂「お姉さま」の、にぎやかで複雑な学院生活が始まった。果たして彼は、これから無事に学院生活を過ごせるのか!?